昔々あるところに、子供がひとりおりました。子供はカバンを持っていました。そのカバンは、『何でも入るカバン』でした。子供はカバンに、おやつを大事に入れていました。そしておなかがすいたので、おやつを出して食べました。そして、何でも入るカバンはからっぽになりました。
そこへ三人兄弟がやってきました。そして子供に言いました。
「その『何でも入るカバン』が空っぽなら、どうかそれを私たちにくださいな。」
子供は何でも入るカバンを、三人兄弟にあげました。三人兄弟はおれいを言うと、急いで家に帰りました。家には三人兄弟のお母さんがいました。お母さんは何でもかんでも食べるので、三人がかりでも動かせないほど重たく太っていました。三人は大事なお母さんをカバンに入れると、この世でいちばん高い山のてっぺんにやってきました。そしてお母さんをカバンから出して、そこでみんなで暮らし始めました。山はとても高かったので、食べ物は霞と雲だけでした。だからみんなは霞と雲を食べて暮らしました。するとお母さんはみるみる痩せて、すっかり身軽になりました。そして、流れる雲のように身軽に山を降りました。みんなは家に帰って幸せに暮らしました。
そこへ、お姫さまがやってきました。そして三人兄弟に言いました。
「その『何でも入るカバン』が空っぽなら、どうかそれを私にくださいな。」
三人兄弟は何でも入るカバンを、お姫さまにあげました。お姫さまはおれいを言うと、急いでお城に帰りました。そしてお城のてっぺんの、誰も来ない小さな部屋に隠れました。それからカバンを広げると、カバンに顔を突っ込んで、自分の大事な秘密を喋りました。そしてカバンを閉めました。そしてお姫さまはカバンを持って、お城を出て、この世の端っこに向かって歩いて行きました。ところが、お姫さまがどんどん歩いていると、みんながお姫さまを見ました。そして、お姫さまの持っている『何でも入るカバン』には何が入っているんだろう、と言い合いました。お姫さまは、カバンの中身を知られたくなかったので、みんなに嘘をつきました。
「この中には、恐ろしい幽霊が入っているのよ。私はこれからこの幽霊を、この世の端っこに捨てに行くのです。だからみんな、私に近づいてはいけないわ!」
みんなは幽霊が怖かったので、さーっといなくなりました。お姫さまは安心して、また歩き出しました。そしてお姫さまはこの世の端っこに来ると、何でも入るカバンを開けました。お姫さまはカバンの中から秘密を取り出すと、この世の端っこにえいっと投げました。お姫さまの秘密は、この世の端っこにどんどん落っこちていきました。お姫さまは安心して、何でも入るカバンをそこに置いたまま、お城に帰って行きました。
さて、この世の端っこは、死人の世界につながっていました。その死人の世界から、カラスが一羽飛んできて、この『何でも入るカバン』を見つけました。カバンには口金が付いていて、それがきらきら光っていました。カラスは大きなくちばしでカバンをくわえると、バッサバッサとはばたいて死人の世界にもどって行きました。そして自分の巣の中にカバンを隠しました。しかし、死人の世界の番人がこれを見つけて、カラスをひどく叱りつけました。カラスは仕方なく、カバンをくわえてまたこの世にやってきました。そして、ぐるぐるとでたらめに空を飛んで、カバンを道ばたに落としました。そして自分を叱った番人の悪口をギャアギャアと言ってから、死人の世界に帰って行きました。
そのとき、ある大きなお屋敷に泥棒が入りました。そして盗んだお金や宝石を服のあちこちに隠して走って逃げました。泥棒があんまりたくさん盗んだので、泥棒の服からはみ出したお金や宝石がポロポロと道にこぼれました。盗まれた屋敷の主人は、そのお金や宝石を拾いながら泥棒を追いかけてきました。そして、大声で叫びました。
「憎たらしい泥棒め! おまえを捕まえたらその身体をまっぷたつにして東と西に放り投げてやるぞ!」
泥棒はどんどん逃げましたが、屋敷の主人もどんどん追いかけてきていたので、泥棒は今にも捕まってしまいそうでした。そのとき泥棒は、道に放り出された『何でも入るカバン』を見つけました。泥棒は急いでカバンの中に飛び込みました。ところが、飛び込んだ拍子に盗んだものが泥棒の服から全部こぼれて、カバンの外に散らばってしまいました。屋敷の主人が走ってくると、道ばたに盗まれたお金や宝石がたくさん散らばっていました。しかしそこには泥棒はいませんでした。屋敷の主人は、
「逃げるのに邪魔になって置いて行ったんだな、ざまあみろ泥棒め!」
と言って、散らばったたくさんの宝石やお金を一つ残らず拾い集めました。そして、鼻歌を歌いながらスキップして屋敷に帰って行きました。泥棒はカバンから出ると、しょんぼり家に帰って行きました。
あるとき、『何でも入るカバン』のそばに、お爺さんがひとり、よろよろとやってきました。お爺さんはとてもたくさん歳をとっていて、身体のあちこちにガタがきていました。そしていつも「生きて行くのが大変だ」とぼやいていました。お爺さんはカバンを見ると、言いました。
「これは良いものを見つけた。この何でも入るカバンの中に、私の歳を入れてしまおう。」
そしてお爺さんは、カバンの中に百歳分の歳を入れて、口をぴっちり閉めました。するとお爺さんはみるみる若返って、すっかり元気になりました。そして、軽やかな足取りで家に帰って行きました。
しばらくするとそこへ、蹴飛ばし男がやって来ました。蹴飛ばし男は何でも蹴飛ばすのが大好きでした。石があれば石を蹴飛ばし、じゃがいもがあればじゃがいもを蹴飛ばし、ボールがあればボールを蹴飛ばしました。そして今、蹴飛ばし男の足元には、百歳分の歳が入った重そうなカバンがありました。蹴飛ばし男はわくわくしました。蹴飛ばし男は喜びの声をあげると、たっぷりと助走をつけて、ぐーんと力いっぱいカバンを蹴飛ばしました。百歳分の歳が入った『何でも入るカバン』は、ぐんぐんぐんぐん飛んで行き、冥王星の向こうまで飛んで行って、そうして見えなくなりました。蹴飛ばし男は満足そうに、家に帰って行きましたとさ。めでたし、めでたし。
2007.03.15