どこまでも、まよいみち

ひなたむし

昔々あるところに、高い塔がありました。その塔のてっぺんの小さな部屋には、窓があって、いつも明るい日がさしていました。そのひなたにはいつも、ひなたむしがいました。ひなたむしは、ひなたにいるときはいつも元気でした。そして夜になって日がささなくなると、ひなたむしは力が抜けて眠ってしまいます。今日も、昼間はひなたで元気にしていたひなたむしは、夕方になって明るい日が夕日に変わると、目をとろんとさせました。そして日が沈んで暗くなると、とろとろと眠ってしまいました。

ひなたむしがすっかり眠ってしまったある夜、この高い塔のてっぺんのひなたむしのいる小さな部屋に、ひとりの泥棒が入りこみました。泥棒は、ランプの灯で部屋のあちこちを照らして、何か盗むものはないかと探しました。そして、眠っているひなたむしを見つけました。この部屋には、ひなたむしの他は誰もいないし、何もありませんでした。泥棒は、つまらなそうに言いました。
「ちえっ。てっきり宝物が隠してあると思ったのに、部屋の中にはちっぽけな虫が一匹いるだけか。こんなつまらないものを盗んでは、俺様の名前が汚れるぜ!」
そして、ひなたむしをポンとけとばして、部屋の隅に転がして、さっさと帰ってしまいました。

次の朝、朝日が昇って、塔のてっぺんのひなたむしのいる部屋にもまた明るい日がさしました。しかし、ひなたむしがゆうべ泥棒にけとばされて転がされた部屋の隅には、日が当たりませんでした。そんなわけでひなたむしは、とろとろと眠ったままでした。そしてそのまま、長い時間が過ぎました。

そして、また別の、ある夜のことです。あのときひなたむしをけとばした泥棒が、またこの部屋に忍び込んできました。今度は泥棒は、宝物をたくさん持っていました。泥棒は盗んだ宝物を、誰もいないこの部屋に隠すことにしたのです。泥棒は、ランプの灯で部屋を照らすと言いました。
「しめしめ。この部屋はあいかわらずからっぽだ。きっと誰のものでもないに違いない。誰のものでもないなら、この俺様が宝物を隠しておいたって、誰にも見つかりゃしないよな。さすが俺様、ツイてるぜ!」
そして泥棒は、部屋のまん中にたくさんの宝石や金貨をどっさり置きました。そして、いそいそと帰って行きました。

次の朝、朝日が昇って、塔のてっぺんのひなたむしのいる部屋にもまた明るい日がさしました。そして、ゆうべ泥棒が置いていったたくさんの宝石や金貨にも日ざしが当たって、きらきらと眩しく光り輝きました。そしてその眩しい光は、部屋の隅のひなたむしのところにも届きました。ひなたむしは、久しぶりの日ざしをとても眩しく感じました。そして
「これはきっと自分が長い間眠っていたせいだ」
と思いました。でもそれは、泥棒が部屋のまん中に置いていった宝石や金貨が、きらきらと、目を開けていられないほどに眩しく光り輝いていたせいでした。その眩しい日ざしをあびて、ひなたむしは、ぐんぐん元気になりました。そして、以前にひなたで過ごしていたときよりも、もっともっと元気になりました。ひなたむしは、背中をむずむずと動かしました。すると、ひなたむしの背中から、宝石のようにきれいな羽が生えました。ひなたむしは、そのきれいな羽を羽ばたかせて、ふわりと浮かび上がりました。そして、塔のてっぺんの小さな部屋の小さな窓から、外へ飛んで行きました。

そして、ひなたむしはもう二度と、この部屋には戻ってきませんでしたとさ。めでたし、めでたし。

2006.11.17