どこまでも、まよいみち

ブケッティーノと鬼@そだひさこ

昔々あるところに、ブケッティーノという名前の男の子がいました。ブケッティーノはある日、自分の部屋を掃除していて、部屋の隅にお金が落ちているのを見つけました。そしていいました。
「これはこの前なくしたお金だ。こんなところにあったのか!」
 ブケッティーノはそのお金を持って外へ出かけました。市場でおいしいものを買って食べようと思ったのです。ところが市場へ行く途中、小さな女の子がかごを持って歩いているのに出会いました。女の子はいいました。
「このりんごを買ってください。売ったお金を持って帰らないと、父さんにしかられるんです。」
 ブケッティーノはかごの中を見ました。かごの中にはりんごがひとつだけ入っていました。ブケッティーノは持っていたお金でそのりんごを買いました。そしてりんごを食べながら家に帰り、食べ終わったりんごの芯を家の畑に捨てました。

次の朝、ブケッティーノが目をさますと、畑の、昨日りんごの芯を捨てた場所に、大きなりんごの木がはえていました。りんごの木には、大きくておいしそうな実がたくさん実っていました。母さんはいいました。
「どういうわけだか知らないけど、私はさっそくこのりんごを市場へ持っていって売ってくるよ。ブケッティーノ、木にのぼってりんごをとるのを手伝っておくれ。」
 ブケッティーノはするすると木にのぼりました。子どもは身軽ですからね。そして、りんごの実をとっては母さんに投げ、母さんはそれをうけとって背負いかごに入れ、というふうにやっているうちに、みるみる、大きな背負いかごがりんごでいっぱいになりました。母さんはかごを背負って出かけました。ブケッティーノは木の上で、りんごを食べながら母さんを見送りました。

するとそこへ、恐ろしい人食い鬼がやってきました。鬼は、ブケッティーノが逃げる間もなく、大きな手でブケッティーノをつかまえて袋に放り込みました。そして袋の口をひもでぐるぐると結わえて、その袋を肩にかついで歩きだしました。鬼は歩きながらいいました。
「おい、袋の中のブケッティーノ。おれはこれから、おまえを特大の鍋で釜ゆでにして食ってやるぞ。楽しみにしていろ!」
 ブケッティーノは袋の中で、じっとしていました。

やがて鬼は、市場のそばを通りかかりました。袋の中のブケッティーノにも、市場のにぎわう声でそれがわかりました。ブケッティーノはいいました。
「鬼のおじさん。おじさんちに上等のマスタードはある? ぼくの母さんがいってたよ、『マスタードをつけずに肉を食べるなんてもったいないことは私は絶対にしないわ』って。鬼のおじさん、ぼくを食べるときには、うんと上等のマスタードをたっぷりつけて食べてね、お願いだよ。ぼくがマスタードなしで食べられたなんて知ったら、母さんが悲しむよ。」
 鬼はちょっと考えて、いいました。
「ちょうどここは市場だ。うんと上等のマスタードを買っていくとするか。」
 そして市場に入ろうとしました。ブケッティーノはまたいいました。
「おじさん! 重い袋をかついだままじゃ、きっと買い物しにくいよ。ぼくをここに置いていきなよ、どうせぼくは袋からでられないんだから。」
 鬼は袋を肩からおろして地面に置くと、市場に入っていきました。ブケッティーノはポケットに持っていたナイフで袋に穴をあけ、外へ逃げ出しました。そして、市場でりんごを売っている母さんのところに走っていっていいました。
「母さん! 残っているりんごを全部、ぼくのかわりに袋に詰めて!」
 母さんは急いでりんごを袋に詰めて、袋の穴を糸で縫ってふさいでおきました。それからまもなく、鬼がもどってきました。鬼はもとのように袋を肩にかつぐと、鼻歌をうたいながら歩いていきました。

鬼は自分の家に着くと、台所で袋を床におろして、大きな鍋に湯をぐらぐらと沸かしました。そうして、いよいよブケッティーノを食べられるぞと思いながら、袋のひもをほどきました。ところが、袋の中にブケッティーノの姿がありません。鬼はブケッティーノに逃げられたことがわかると、怒って袋の中身を床にぶちまけました。りんごがごろごろと床に散らばりました。鬼は恐ろしい声でいいました。
「ブケッティーノのやつ、よくもだましたな。もう一度つかまえてやる!」
 そして家の外に出ていきました。

鬼が出ていったのを見ていたブケッティーノは、鬼の家に入りました。床にはたくさんのりんごが散らばっていました。ブケッティーノは急いで散らばったりんごを拾い集めて、シャリシャリと食べました。一つ食べ終わると、もう一つ食べました。食べて、食べて、食べて、そうしてついに全部のりんごを食べました。そしてそのりんごの芯を全部、糸で結わえてつなげて、長いはしごを作りました。それからブケッティーノは、するすると鬼の家の屋根の上にのぼりました。子どもは身軽ですからね。そして、りんごの芯のはしごを、屋根からたらしておきました。

やがて鬼が悔しそうに戻ってきていいました。
「ブケッティーノのやつ、いったいどこへ行ったんだ!」
 するとブケッティーノがいいました。
「ここだよ、おじさんの家の屋根の上だよ。」
 鬼はブケッティーノを見上げると、怒って大声でいいました。
「ブケッティーノ! 今度こそおまえを食ってやる!」
 そして大きな手でブケッティーノを捕まえようとしましたが、屋根の上までは手が届きませんでした。鬼はすぐに、ブケッティーノがぶらさげておいたりんごの芯のはしごを見つけました。そしていいました。
「こんなものを使って屋根にのぼったのか。待っていろ、おれもすぐにそこへ行くからな!」
 そして、りんごの芯のはしごを、ずんずん、ずんずん、のぼってきました。そして、屋根に手が届きそうになったそのとき、りんごの芯のはしごが、ぶっつりと切れました。鬼ははしごと一緒にまっさかさまに落ちました。そして地面にめりこんで、死んでしまいました。

ブケッティーノはそれからは、安心して、木の上でりんごを食べられるようになりましたよ。昔話はこれでおしまい。

2012.09.30

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ