昔々あるみすぼらしい家に、おばちゃんが一人で暮らしていました。おばちゃんはある晩不思議な夢を見ました。その日からおばちゃんは、毎日帳面を広げて何かを書きつけるようになりました。
ある日おばちゃんは用事で町へ出かけて行きました。するとそのすきに、隣の家の金持ちおじちゃんが、おばちゃんの帳面を盗み見してしまいました。おばちゃんの帳面には、「今日は十万円」「今日は十五万円」「今日は二十万円」と、毎日書いてありました。おじちゃんは
「ははあ、こんなボロ家に住んでいるから貧乏人だと思っていたが、本当はこっそり商売をしてお金をたくさん貯め込んでいるんだな」
と思いました。そして、なんとかそのお金を自分のものにする方法はないかと考えました。
やがておばちゃんが用事を終えて帰ってきました。するとすぐに隣のおじちゃんがやってきて、
「なあ、じつは私は前からあんたと一緒になりたいと思っていたんだ。どうだい、今日から一緒に暮らさないかい」
と言いました。おばちゃんはびっくり仰天しましたが、ひとりぼっちで歳をとるのは寂しいことだと思っていたので、おじちゃんと一緒に暮らすことにしました。おばちゃんは少しの着物と帳面を持って、隣のおじちゃんの家に行きました。
ふたりはすっかり仲の良い夫婦になりました。そして何年かたったとき、おばちゃんは用事で家を留守にしました。おじちゃんはそのすきに、おばちゃんの帳面を盗み見しました。しかし帳面には何も書かれていませんでした。また何年かたっておばちゃんが家を留守にしたとき、おじちゃんは帳面を盗み見しましたが、今度も何も書かれていませんでした。おじちゃんはついに、思い切っておばちゃんに、
「おまえ、帳面をつけていないのかい」
と聞きました。するとおばちゃんは少し驚いて、そして
「あんた、もしや私がお金を持っていると思っていたのかい」
と言いました。それからこう言いました。
「あるとき私のご先祖様が夢に出てきて、毎日帳面にでたらめを書いていれば良いことがあると教えてくださったんだ。私は一文無しだったんだよ」
これを聞いたおじちゃんは、頭を床にゴリゴリとくっつけて悔しがりました。
おばちゃんは楽しそうにケラケラと笑って、ご飯の支度をしに台所へ行きました。やがて夕飯の美味しそうな匂いがおじちゃんの鼻に届くと、おじちゃんは悔しがるのをケロリと忘れてご飯を食べに行きました。ふたりは今でも仲良く暮らしているそうです。めでたし、めでたし。
2008.01.16