どこまでも、まよいみち

素晴らしいパン

昔々あるところに、鳥がいました。鳥はあるとき、猟師のわなにかかってしまいました。鳥がわなから逃れようとして暴れていると、そこを泥棒が通りかかりました。鳥は必死で言いました。
「お願いです、私を助けてください、猟師が来る前に!」
気の毒に思った泥棒は、鳥をわなからはずしてやりました。鳥はたいそう喜んで、泥棒にこう言いました。
「あなたは私の命の恩人です。私があなたの役に立てることがあったら、何でも仰ってください。」
すると泥棒は、鳥を連れて大きな宮殿の前まで来ると、鳥に向かって言いました。
「俺様は国一番の泥棒だが、どうしても盗めないものがある。それをおまえに盗ってきてもらいたいのだが。」
鳥は、ハイわかりました、と答えました。すると泥棒は言いました。
「この宮殿の中に、『素晴らしいパン』があるそうだ。それを見つけて、盗ってきてくれ。」
鳥は早速、宮殿の中に入りました。宮殿の中はそれはそれは素晴らしく、何もかもが豪華で、暮らしているのも美しい人たちばかりでした。鳥は、『素晴らしいパン』を探しました。すると台所に、見た事もないような美味しそうなものを挟んだ、うっとりするようなサンドイッチが置いてありました。鳥はそのサンドイッチを一切れくわえると、宮殿を抜け出して泥棒のところに戻りました。泥棒は、サンドイッチをムシャムシャと食べて舌鼓を打ちましたが、しかしこう言いました。
「これは『素晴らしいパン』ではない。『素晴らしいパン』はサンドイッチではないのだ。」
鳥はもう一度、宮殿の中に入りました。そして今度は、ご夫人の部屋で、とてもいい匂いのするケーキを見つけました。鳥はケーキを一切れくわえると、宮殿を抜け出して泥棒のところに戻りました。泥棒は、ケーキをムシャムシャと食べて舌鼓を打ちましたが、しかしこう言いました。
「これは『素晴らしいパン』ではない。『素晴らしいパン』はケーキではないのだ。」
鳥はもう一度、宮殿の中に入りました。そして今度は、食堂の隅で、質素なカゴに盛られたパンを見つけました。それはごく普通のパンでした。しかし、宮殿の中にはもうパンはそれしかありませんでした。鳥はそのパンをひとつくわえると、宮殿を抜け出して泥棒のところへ戻りました。泥棒は、パンを一口食べました。そして、もう一口ちぎって、鳥にも分けてやりました。泥棒は言いました。
「これこそまさに『素晴らしいパン』だ!」
鳥が驚いてパンを見ると、さっきちぎったはずのパンが、元の形に戻っていました。いくら食べても、パンはすぐに元に戻って、ちっとも減ることはありませんでした。『素晴らしいパン』は、『減らないパン』だったのです! めでたし、めでたし。

2007.10.20

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ