どこまでも、まよいみち

宝の雲

昔々あるところに、お爺さんがひとりおりました。お爺さんはもう長いこと生きて、毎日一生懸命働いてきました。ところがお爺さんは、ある年の大晦日に、ふと、こう思いました。
「来年は、ひとつ、怠けて暮らしてみよう。今まで一日も休まず働いてきたのだから、たまには良いじゃろう。」
そして、正月の支度をすっかり済ませてしまうと、布団を敷いて、横になりました。そして、明日からはどんな面白いことをして過ごそうかと考えました。しかし、今まで働いてばかりいたので、働かない日にどんな面白いことをすれば良いのか、お爺さんにはさっぱりわかりませんでした。思いつかないまま夜も更けて、お爺さんは眠ってしまいました。

お爺さんはその夜、夢を見ました。お爺さんは夢の中で、縁側に座って雲を眺めていました。すると雲の上から美しい天女が現れて、お爺さんのところにふわふわと降りてきました。そして、にこにこしながらこう言いました。
「おほほほほ、おほほほほ。お爺さん、あの雲をつかまえてご覧なさいな。それができたら、宝物が手に入りますよ。おほほほほ、おほほほほ。」
そして、また雲の上にふわふわと帰って行きました。

次の日、お爺さんは縁側に座って、昨夜見た夢を思い出していました。するとそのとき、縁側に小鳥がコトンととまりました。小鳥は口にきれいな縄をくわえていました。そして、その縄をお爺さんに渡しました。そして、
「オホホホホ、オホホホホ!」
と鳴きました。お爺さんはびっくりして、小鳥をよく見ました。すると、小鳥の顔が、夢の中の天女のように、にこにこと笑っていました。これはなんと珍しい鳥じゃ、とお爺さんは思いました。すると小鳥は、お爺さんの持っていた縄の端をくわえると、ぱたぱたと空を昇って行きました。縄はどんどん長く伸びて、ついに雲まで届いてしまいました。すると小鳥は、その縄をくわえたまま雲のまわりをくるくると飛びまわり、雲に縄を結わえ付けてしまいました。お爺さんが縄の端をくいくいと引っぱると、雲はふいっふいっと愉快に動きます。お爺さんは雲の動くのが面白くてたまらなくなり、一年中そうして遊んでいました。そしてその年の大晦日になったとき、お爺さんはふと思いました。
「あの雲の中には、もしかしたら本当に宝物があるんじゃろうか。しまった、早く引き寄せて、確かめなくては。」
しかしそのとき、一年経ってすっかり古くなっていた縄が、プツンと切れてしまいました。宝物の入った雲は、風に乗って流れて行き、やがて見えなくなってしまいましたとさ。

2007.10.17

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ