どこまでも、まよいみち

町長さん

昔々あるところに、大きな町がありました。大きな町のまん中には、町長さんの家がありました。この町の人たちは、よく道に迷っていました。そこで町長さんは、家の前に椅子を置いて腰かけて、道に迷って困っている人に道を教えてあげていました。

ある夏の日の事でした。夜になり、町長さんがそろそろ家に入ろうと思ったとき、町長さんの前に、幽霊がゆらゆらと現れました。幽霊は、ちょっと遊びに出たら道に迷って、自分のお墓に帰れなくなったのだと言いました。町長さんは幽霊に道を教えてあげました。幽霊は町長さんにおれいを言うと、ゆらゆらと自分のお墓に帰って行きました。

ある秋の日のことでした。赤とんぼを追いかけて走っていた子どもが、夢中になって走っているうちに知らないところまで来てしまったと言って泣いていました。町長さんは、子どもを家まで送って行ってあげました。さっきまで子どもに追いかけられていた赤とんぼは、今度は子どものあとについて飛んできました。そして子どもが家に入るのを見ると、安心してどこかに飛んで行きました。

ある冬の日のことでした。町長さんは椅子のそばにストーブを置いて、ストーブにあたりながら座っていました。町長さんの膝には、いつの間にか野良猫が丸くなって暖まっていました。買物帰りのお母さんや、学校帰りの子どもたちが、暖かいストーブに寄り道して行きました。町長さんは楽しい一日を過ごしました。そして、夜になったので家に入ろうとしました。しかし、膝の上の野良猫は、町長さんの暖かい膝から降りようとしませんでした。仕方なく町長さんが野良猫を抱き上げようとすると、野良猫は町長さんのズボンに爪を引っ掛けて、全力で膝にしがみつこうと頑張りました。町長さんは仕方なく、野良猫を膝にくっつけたまま家の中に入りました。

ある春の日の事でした。町では桜の花が満開になりました。町の人たちは、町のあちこちに集まってお花見をしていました。墓地の角では、夏に道に迷っていた幽霊が、お酒を呑んで、ゆらゆらといい気持ちになっていました。公園では、秋に赤とんぼを追いかけていた子どもが、家族と一緒に楽しそうにお弁当を食べて笑っていました。そして、町長さんの家の前には、町長さんがいつものように椅子に座っていました。そしてその隣には、もうひとつ小さな椅子が置かれていました。小さな椅子には、そう、冬に町長さんの膝で丸くなっていた野良猫が、とろりと気持ち良さそうに伸びて眠っておりました。町長さんは、お花見のごちそうに、チーズを一切れ切って、猫のそばに置いてやりましたとさ。

2007.10.04

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ