どこまでも、まよいみち

墓石にとまったセミ

昔々あるところに、古い小さなお墓がありました。あるとき、お墓の前を旅人が通りかかりました。旅人はおなかがすいてふらふらになっていました。そして、小さなお墓に供えてあったおはぎを見つけると、ひとつもらって食べました。おかげで旅人は元気を取り戻しました。旅人は、お墓に手を合わせて言いました。
「どなたのお墓か知りませんが、おかげで、私は命拾いをしました。もし何か困った事があったら、いつでも私が力になります。」
そして、また旅を続けました。

別のあるとき、今度はお墓の前を、一匹の犬が通りかかりました。犬はおなかがすいてふらふらになっていました。そして、小さなお墓に供えてあったおはぎを見つけると、ひとつもらって食べました。おかげで犬は元気を取り戻しました。犬は、お墓に手を合わせて言いました。
「どなたのお墓か知りませんが、おかげで、私は命拾いをしました。もし何か困った事があったら、いつでも私が力になります。」
そして、また歩いて行きました。

また別のあるとき、一匹のセミが飛んできて、お墓の墓石にとまりました。そして、とんでもなく大きな声で鳴き出しました。お墓の主は、それまで静かに眠っていたのにセミに起こされてしまいました。そしてセミは六日間、昼も夜も鳴き続けました。お墓の主は困ってしまいました。そのとき、あの旅人の言葉を思い出しました。そして、旅人のところへ飛んで行くと、
「困っているから助けてくれ。」
と言って、旅人を自分のお墓まで連れてきました。すると旅人は両手で耳をふさぎ、大声で墓の主に言いました。
「まずこのセミをどこかへやってくれ! うるさくてあんたの話が聞こえないよ! でなきゃ、あんたが何に困っているのか聞くこともできやしない!」
お墓の主は困ってしまいました。そのとき、あの犬の言葉を思い出しました。そして、犬のところへ飛んで行くと、
「困っているから助けてくれ。」
と言って、犬を自分のお墓まで連れてきました。すると犬は両手で耳をふさぎ、大声で墓の主に言いました。
「まずこのセミをどこかへやってくれ!」
こうして皆は困ったまま、お墓の前で一日を過ごしました。そして、セミが鳴き続けてからちょうど七日間が過ぎました。セミは、急にぴたりと鳴くのをやめて、そして、セミの短い一生を終えて、死にました。やっと静かになったので、墓の主はまた静かに眠ることができました。旅人と犬は、お墓に手を合わせ、セミにもそっと手を合わせました。おしまい。

2007.09.30

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ