どこまでも、まよいみち

鈴の島

昔々あるところに、小さな島がありました。その島のまん中には、鈴のなる木がありました。この木の鈴は、とても綺麗な音で歌うので、近くを通った船の乗組員はみな不思議な気持ちになって、方向を見失い、陸に帰れなくなってしまいます。世界中の海には、こうして陸に戻れなくなってしまった船が、何艘も漂っているのです。この話を聞いた誰かが、
「それならその島の近くを通らなければいいじゃないか」
と言いましたが、それは無理な話です。その小さな島は、おやつのドーナツみたいに小さくて、どんな地図にも載っていないのです。だから、もし船の上で鈴の音が聞こえてきたら、そのときはもう、遅いのです。

あるとき、ひとりの船乗りが、遠い国へ行く事になりました。船乗りは船に積み込む食料を背負って、船を泊めてある港に向かって歩いていました。すると途中の道で、カラスにつつかれていじめられている猫を見つけました。船乗りは石を拾ってカラスのくちばしに命中させました。カラスの悪いくちばしは、途中からポッキリと折れて、もう猫をいじめることができなくなりました。猫は船乗りにおれいを言いました。そして、船乗りがこれから広い海に出ることを聞くと、自分も船に乗せてくださいと頼みました。猫があまり熱心に頼むので、船乗りは猫を連れて行く事にしました。船乗りと猫が港を出発してから、長い日にちが経ちました。そして、ちょうど海の半分くらいのところまで来たときです。猫が、船乗りに言いました。
「船乗りさん、これ以上進んではだめ。私の耳にはもう鈴の音が聞こえています。このまま進むと、船乗りさんの耳にも鈴の音が聞こえてきて、一生陸に上がれなくなってしまいます。」
しかし船乗りは、進まないわけにはいかないよ、と言って、猫の言う事を聞かず、船をぐんぐん進めました。すると猫は、船乗りの頭の上にピョンと跳び乗り、前足でおでこにしがみつきました。そして、
「何をするんだ、やめろやめろ!」
と言って自分を追い払おうとする船乗りの両手を必死にかわしながら、後足の先のぷよぷよした柔らかい肉球を、船乗りの両耳に突っ込みました。船乗りは何も聞こえなくなってますます慌てました。そのとき、進み続ける船の横に、ドーナツみたいな小さな島が見えました。島には小さな鈴の木がありました。しかし船乗りは、猫の肉球のおかげで、鈴の音を聞かずに済みました。ぶじに陸に上がれた船乗りは、この猫を一生大事にして暮らしたそうです。めでたし、めでたし。

2007.09.28

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ