どこまでも、まよいみち

床の間のお爺さん

昔々あるところに、お爺さんが一人で暮らしていました。お爺さんは、畑で野菜を作ったり、川で魚を釣ったりして、のんびりと暮らしておりました。ある夏の日、お爺さんのところに、子どもがひとり、遊びに来ました。その子どもは、お爺さんが今まで見かけたことのない子どもでした。お爺さんは子どもを家に入れてやり、甘いトマトをおやつに出してやりました。子どもは、美味しそうに、トマトを食べました。お爺さんは、子どもに聞きました。
「おまえさん、初めて見る顔だなあ。どこに住んでいるんじゃ?」
すると子どもは、
「あっち。」
と言って、空のほうを指さしました。お爺さんは笑って、
「そうか、ずいぶん遠くから遊びに来たんだなあ。」
と言いました。子どもは、こくん、とうなずきました。そして、お爺さんに向かって、にこっと笑いました。お爺さんも笑って、
「おお、かわいらしい笑い顔じゃ。」
と言いました。
子どもはしばらくお爺さんといっしょに、トマトを食べたり、瓜を食べたり、笑ったりして過ごしました。やがて、夕方近くなった頃、お爺さんは言いました。
「おまえさん、もう帰らなくてはならんなあ。帰り道が暗くなりそうだから、わしが家まで送って行くとしよう。」
すると子どもは嬉しそうに、
「ぼくんちへ来てくれるの? ぼくんちへ来てくれるの?」
とお爺さんに聞きました。お爺さんは、そうだよ、と言いました。すると子どもはまた、
「ずっとぼくんちにいてくれる?」
と聞きました。お爺さんは、わっはっは、と大きく笑って言いました。
「それは無理じゃ。正月に息子が帰ってきたときに、寂しい思いをさせてしまうよ。」
これを聞くと子どもは、外から棒切れと石を拾ってきました。そして、石で棒切れを上手に削って、あっという間に、お爺さんそっくりの置物を作りました。お爺さんは驚いて、
「これはなんと見事な。まるで、わしが生きているようだ。なんとも妙な気持ちじゃ。」
と言いました。子どもはその置物をお爺さんの家の床の間に置くと、少し戸惑っているお爺さんの手をぎゅっとにぎって、嬉しそうに歩き出しました。

やがて冬になり、お爺さんの息子がお爺さんをたずねてきました。一緒に正月を過ごそうと思ったのです。しかしお爺さんはどこにもおらず、床の間に、お爺さんそっくりの置物がひとつ置いてあるだけでした。息子はその置物にお餅をお供えして、静かに手を合わせ、涙を一粒こぼしました。おしまい。

2007.09.19

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ