どこまでも、まよいみち

羊の毛皮

昔々ある国に、王さまと、歳の若いお后さまがおりました。お后さまは大事な公務をほったらかして遊んでばかりいて、王さまがいくら言い聞かせても、またすぐに遊びに行ってしまうのでした。あるとき、お后さまはいつものようにお城を抜け出し、牧場のほうへ行きました。牧場には、羊がたくさんいました。お后さまは羊たちと遊びたくなって、羊の群れの中に走って行きました。しかし、羊たちはお后さまから逃げてしまいます。お后さまがまた走って行くと、羊たちはまた四方八方に逃げてしまい、お后さまのまわりはぽっかりと誰もいなくなってしまうのです。お后さまは今度は思いきり駆け出して、ポーンとジャンプして、逃げ遅れた羊にがっしりとしがみつきました。しがみつかれた羊はあわてて、自分の毛皮と一緒にお后さまを振り落としました。そして遠くへ逃げてしまいました。お后さまは、羊が脱いでしまった毛皮を、すっぽりとかぶってみました。その毛皮はお后さまの体にぴったりでした。お后さまは面白がって、羊のように四つ足で駆け回ったり、羊のなき声をまねたりして、あはは、あははと笑いました。しばらくして、お后さまが
「そろそろ帰りましょう」
と思い、着ていた羊の毛皮を脱ごうとしました。ところが、毛皮は体にぴったりとくっついて、どうしても脱げなくなっていました。お后さまは仕方なく、毛皮を着たままお城へ帰りました。そして召使に、この毛皮を脱がせてちょうだい、と言いました。しかし召使は、
「なんだ、この羊は? 私の事を知っているように、ウエェ、ウエェ、と話しかけているぞ?」
と言って、不思議がりました。そこへ王さまがやってきて、言いました。
「お妃はまだ帰らないのかね。」
そして、こうも言いました。
「おや、その羊は今夜のごちそうかね? これは上等なラム肉だ。どれ、私が台所まで連れて行って、この手でしめてやろう。」
お后さまはふるえあがって言いました。
「王さま、私よ、どうして私の事がわからないの?」
しかし王さまは耳も貸さずに、ぐいぐいと羊を台所へ引っぱって行きました。そして料理人たちに羊を押えつけさせました。お后さまはとうとう泣き出して、叫びました。
「やめてやめて、私は羊じゃないわ、妃よ! もう二度と遊びに行ったりしません、だから助けて!」
すると王さまはニッコリ笑って、お后さまの羊の毛皮を脱がせてあげました。それからというもの、お后さまは公務をさぼることは一度もなくなったそうです。めでたし、めでたし。

2007.09.08

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ