どこまでも、まよいみち

笛を吹く男

昔々あるところに、笛吹の男がいました。男はいつも、笛を吹きながら旅をしていました。男の笛には不思議な力がありました。男が馬に乗って笛を吹くと、どんな暴れ馬でもおとなしく歩き出します。男が車に乗って笛を吹くと、運転しなくても車はコロコロと走り出します。そして、男が板切れに乗って笛を吹けば、板切れはするすると動き出します。あるとき、板切れに乗ってすいすいと旅をしている男に、子どもが声をかけました。
「おじさん! その板に、ぼくも乗せてよ!」
男は笑って、子どもを板切れに乗せ、笛を吹いてやりました。すると板切れは子どもを乗せてすいすいと動きました。子どもは、
「わあ、すごいや! ねえ、その笛も吹かせてよ!」
と言いました。男は笑って、子どもに笛を貸してやりました。子どもは板切れの上で、ピイピイと下手っぴいに笛を吹きました。するとそのとたん、板切れはでたらめに動き出し、子どもを乗せてあっという間に遠くへ行ってしまいました。男はあわてて子どもを追いかけました。そしてやっと追いついて、子どもは板から降ろしてもらうことができました。子どもは泣きながら家に帰りました。

これを見ていた一人の老人が、目を輝かせて、笛吹男に頼みました。
「もし、その笛をどうかわしに譲ってくださらんか。一生のお願いじゃ。頼む、頼む、どうか頼む、どうか頼む!」
老人があまりに必死に頼むので、怖くなった男は笛を老人にやり、さっさとどこかへ行ってしまいました。笛をもらった老人は、板切れに乗ってたいそう上手に笛を吹き、北の海へやってきました。そして、大きな氷山によじ登り、笛を吹いて氷山を泳がせて、北の果てまで行きました。この老人の目的は、若返りのまじないをすることでした。世界中の本を読んで若返りの呪文を探し当てた老人は、北の果てに行く方法をずっと探していたのです。いよいよ老人は、北の果てのまん中で、逆立ちをして、呪文を唱えました。すると、老人はみるみる若返りました。若返った男は大喜びで、板切れに乗って戻ってきました。そして高らかな音色で笛を吹いて喜んでいました。

すると、さっき泣いて帰った子どもの父親が、笛の音を聞きつけてやって来ました。そして、板切れを掴むと、若返った男を殴りつけて言いました。
「さっきはよくも、うちの息子を怖がらせてくれたな!」
そして父親は、若返った男をボコボコにしてから、家に帰って行きましたとさ。…めでたし、めでたし。

2007.09.02

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ