どこまでも、まよいみち

弓の名人

昔々、弓の名人の若者が、旅をしていました。若者がある村へさしかかったとき、物陰でしくしく泣いている子どもを見つけました。若者は子どもに、なぜ泣いているのかと聞きました。子どもは言いました。
「この卵を拾ったら、恐ろしい人食いに見つかって、追いかけられたんだ」
若者は驚いて、悪い人食いをなぜ退治してしまわないのかと聞きました。すると子どもは言いました。
「あの人食いを退治するには、胸に金の矢を撃ち込まなくてはならないんだ。でも、誰もそれができないんだよ。」
そしてまた、しくしく泣き出しました。若者は、子どもの涙を拭いてやり、卵を預かって自分の懐に入れました。そして言いました。
「その人食いは、私が退治しよう。だから安心しなさい。」
そして子どもの手をひいて、村の長者のところへ行きました。

長者と村の人たちは、この若者が恐ろしい人食いを退治してくれると聞いてたいへん喜び、すぐに金の矢を用意してくれました。若者は金の矢を携えて、恐ろしい人食いの家に行きました。人食いは留守のようでした。若者は、家の中に入りました。そして階段を登って二階へ行き、物陰に隠れてじっとしていました。人食いが帰って来て階段を登って来たところを、金の矢で撃ち抜こうと思ったのです。しかし、なかなか人食いは帰ってきませんでした。そして、夜になりました。するとついに、階段が、ミシ、ミシ、と音を立てました。若者はすばやく金の矢を弓につけ、息をころして、じっと人食いの姿を待ちました。ミシ、ミシ、と音が近づいて来ます。そして、人食いの恐ろしい姿がそこに現れました。若者は金の矢を放ちました。しかし人食いの体は、飛んで来た矢をはね返してしまいました。若者は急いで、自分が持っていた普通の矢も放ってみました。しかしそれも全部はね返されてしまいました。若者は慌てました。そして、昼間に子どもから預かった卵を、懐から落として割ってしまいました。

すると、割れた卵から、金のくちばしを持ったひよこが孵ったのです。金の、くちばし! 若者はそのひよこをつかむと、弓でひいて、恐ろしい人食いの胸めがけて放ちました。ひよこの金のくちばしは、人食いの胸にチクリと刺さりました。人食いは叫び声をあげて倒れ、枯れ木のように乾いて動かなくなりました。若者は村に帰り、ひよこのくちばしが人食いを退治してくれた事を話しました。村人たちはそれからは安心して、いつまでも楽しく暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。

2007.08.23

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ