どこまでも、まよいみち

カニの台所

昔々あるところに、カニが住んでおりました。カニの家の台所には、おいしい食べ物がたくさんありました。あるとき、カニの家の前を、山羊を連れた山羊飼いが通りかかりました。カニは出かけていたので、カニの家には誰もいませんでした。山羊飼いは、カニの家の台所においしい食べ物がたくさんあることを知っていましたので、連れていた山羊たちをそこにつないで、自分はこっそり、カニの家に入りました。そして台所へ行って、おいしい食べ物を、ガツガツと全部食べてしまいました。

おいしいものでおなかがいっぱいになった山羊飼いは、すっかり満足して、ごろんと横になりました。そして、
「あー、食った食った、極楽、極楽!」
と言って、ブー、とおならをたれました。すると、そのおならの、臭い事、臭い事! 山羊飼いは、自分のおならのにおいに窒息しそうになりました。そして、あわてて外に飛び出しました。ところが、山羊飼いのおならは、カニの家の台所から外へ出てきて、山羊飼いのそばまで漂ってきました。山羊飼いは、こりゃたまらんと一目散に走って逃げました。山羊飼いのおならは、走って逃げる山羊飼いをどこまでも追いかけました。山羊飼いは、走って走って、ついに海辺まで走ってきました。

するとそこには、カニがいました。カニは山羊飼いを見ると、言いました。
「おや、山羊飼いさん。今日は、山羊に草を食べさせに行かないのですか。」
すると山羊飼いは、
「ああ、カニさん。じつはうちの山羊たちが、おたくの台所へ勝手に入り込んで、食べ物をみんな食べてしまったのですよ。だから私は、あなたにそれを知らせに来たのです。おろかな山羊のした事ですから、どうか許してください。」
と、嘘をつきました。するとそのとき、山羊飼いを追いかけてきた臭いおならが、山羊飼いに追いつき、山羊飼いの顔のまわりに漂いました。山羊飼いは、臭くて臭くて辛抱できずに、えいっと、海の水の中に顔を突っ込みました。こうすれば、臭いにおいをかがなくてすみます。でも山羊飼いは、水の中では息が出来ません。山羊飼いは苦しくなってじたばたして、ついに水から顔をあげましたが、今度は臭くて臭くてどうにもなりません。すると、その様子を見ていたカニが、ゲラゲラと笑い出しました。そして、山羊飼いの顔のまわりに漂っているおならに向かって、言いました。
「もういいよ、消えろ。」
すると不思議な事に、おならはもうどこにもいなくなっていました。

山羊飼いは、やっときれいな空気を吸えるようになって心底ほっとしました。そしてカニにお礼を言いました。それから、台所の物を食べてしまったのは本当は自分だと白状し、砂浜におでこをこすりつけてカニに謝りました。カニは、山羊飼いのふさふさした髪の毛をハサミで全部刈り込んで、つるつるにしてから許してやりました。そして、ケラケラと笑いながら家に帰って行きました。山羊飼いのつるつる頭には、それ以来一本も毛が生えてくる事はありませんでしたとさ。めでたし、めでたし。

2007.07.24

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ