どこまでも、まよいみち

おならだいじん

昔々あるところに、貧乏な夫婦がおりました。あるときこの夫婦に男の子が生まれました。夫婦はたいへんよろこびました。しかし、この男の子は生まれたときから、プー、プー、とおならばかりしていました。眠っていてもプープー、ミルクを飲んでいてもプープー、オギャーと泣きながらプープー、オギャープーオギャープー。

やがて男の子は大きくなりましたが、あいかわらずおならばかりしていました。みんなは毎日毎日男の子のおならを聞いているうちに、なんだか愉快な気持ちになってきました。お父さんとお母さんが夫婦げんかをしていても、プー、プー、と聞こえてくると、けんかをする気もなくなって、おかしくなって笑ってしまいます。近所のいじめっこが小さな子どもを泣かせていても、プー、プー、と聞こえてくると、いじめっこは小さな子をいじめる事がばかばかしくなってしまいます。泣いていた小さな子どもも、プープーを聞くと泣くのをやめてげらげら笑い出します。しまいにはいじめっこと小さな子が一緒になってげらげら笑います。みんながしんと寝静まっている真夜中に泥棒が入ったときも、泥棒が抜き足、男の子がプー、泥棒が差し足、男の子がプー、泥棒が忍び足、男の子がプー。泥棒はおかしくなって笑いをこらえられなくなり、物も取らずにあわてて外へ逃げて行ってしまいました。みんなはこの男の子を「おならだいじん」と呼びました。そしてみんなとおならだいじんは仲良く過ごしておりました。

あるとき、この村の長者の家で困った事が起きました。長者の大切な一人娘がいなくなってしまったのです。長者は娘を探しましたが、娘はみつかりませんでした。村中の人が心配して、長者の娘を探しました。おならだいじんの男の子も娘を探しました。田んぼの中に落っこちていないか、畑の肥溜めにはまっていないか、狸を追いかけて迷子になっていないか。村中のあらゆるところを皆で探しましたが、やっぱり娘は見つかりませんでした。

皆は長者の家に集まりました。長者は探してくれた皆におれいを言いました。そして
「娘は人さらいにさらわれたに違いない、もう生きていないかもしれない」
と言い、ぼろぼろと泣き出しました。おならだいじんの男の子は、このときばかりはのんきにおならをしてはいけないと思い、一生懸命おならを我慢していました。長者は娘の話をしながら泣いています。村の人たちも泣いています。男の子は一生懸命おならを我慢しているうちに、だんだんおなかが苦しくなってきました。男の子はそれでも、歯を食いしばったり、ぎょっと目を見開いたり、あらゆるところに力を入れておならを我慢していました。

しかし、ついに我慢の限界がきました。男の子は長者の家から飛び出して、山のほうにお尻を向けると、ぷぷぷぷぷぷぷぷぷー とおならをしました。おならは澄んだ音でどこまでも響き渡りました。そして山からは、ぷぷぷぷぷぷぷぷぷー とやまびこが返ってきました。

すると、長者の家の芋倉庫のあたりから、くっくっくっと笑い声が聞こえてきました。男の子が見てみると、そこには長者の娘がいて、こっそり倉庫のさつま芋を焼いて食べていました。娘は
「一度でいいからこのさつま芋をたらふく食べたかったのだけれど、人に見られるのは恥ずかしかったから、ここで一人でこっそり食べていた」
と言いました。そして、プップップーとおならをしました。娘は顔を赤くしましたが、男の子は自分もプーとおならをして、そして笑いました。すぐに娘も笑い出しました。ふたりはげらげらと笑いながら、プープーとおならをしました。

やがて男の子は、長者の娘と結婚する事になりました。みんなは、
「おならだいじんが本当におならだいじんになった」
と言って、若いふたりを祝福しました。そしてふたりはいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし、プー、プー。

2007.01.19

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ