どこまでも、まよいみち

小さな小太郎

昔々あるところに、小さな子どもがいました。名前を小太郎と言いました。小太郎は本当に小さくて、生まれたときにはヒヨコくらいの大きさでした。そして、十歳になってもまだハトくらいの大きさでした。このままでは、人間の大きさになるのにはいったい何十年かかるのでしょう。でも小太郎は、そんなことはちっとも気にしませんでした。小太郎は元気いっぱいでした。毎日、ふたりの兄さんたちと一緒に草っぱらを走り回って遊びました。小太郎は兄さんたちを大好きでした。兄さんたちも、小太郎を大好きでした。

その日も、小太郎と兄さんたちは野っぱらで走り回って遊んでいました。みんなで追いかけっこをしていたとき、先頭を走っていた上の兄さんが、何かに足をとられて転びました。転んだ上の兄さんは足もとを見ました。すると、地面に穴があいていました。上の兄さんは言いました。
「ああ、ぼくはこの穴に足を取られて転んだんだな。」
そして、中の兄さんと、末っ子の小太郎を呼んで言いました。
「いいかい、ここには穴があいているから、気をつけないとぼくみたいに足を取られて転んでしまうよ。」
ふたりは
「うん、わかった」
と返事をしました。そして三人は、また元気に追いかけっこをはじめました。

今度は、中の兄さんが先頭になって走りました。他のふたりは夢中になって追いかけました。すると、中の兄さんも、何かに足を取られて転びました。転んだ中の兄さんは足もとを見ました。すると、さっき上の兄さんが見つけた穴が、そこにありました。中の兄さんは、上の兄さんと末っ子の小太郎を呼んで言いました。
「いいかい、ここには穴があいているから、気をつけないとぼくみたいに足を取られて転んでしまうよ。」
ふたりは、
「うん、わかった」
と返事をしました。そして三人は、また元気に追いかけっこをはじめました。

今度は、小太郎が先頭になって走りました。小太郎は小さくてすばしこかったので、他のふたりは追いかけるのがとても大変でした。でもみんなで夢中で走りつづけているうちに、とても愉快な気持ちになりました。小太郎は、げらげら笑いながら走りました。兄さんたちもげらげら笑いながら走りました。すると、小太郎がふいにいなくなってしまいました。兄さんたちはあわてて小太郎が消えたあたりに走ってきました。そして地面を見ると、そこにはさっきふたりが足を取られた穴がありました。兄さんたちが穴をのぞくと、小太郎が、その穴の底へひゅるひゅると落ちていくのが見えました。兄さんたちは急いで手を伸ばして小太郎をつかまえようとしましたが、小太郎はもうずっと深いところに行ってしまっていました。兄さんたちは、
「小太郎、小太郎」
と呼びつづけました。小太郎は
「上の兄さん、中の兄さん」
と、兄さんたちを呼びつづけました。そして、ついに小太郎は見えなくなってしまいました。小太郎の声も聞こえなくなってしまいました。兄さんたちは、大泣きしながら家に帰りました。お父さんもお母さんもたいそう悲しみました。その日はだれも夕飯を食べる気になれませんでした。兄さんたちは夜眠るとき、
「大好きだった小太郎がどうか帰ってきますように」
とお祈りしました。そして泣きながら眠りました。

さて、穴に落ちた小太郎は、兄さんたちが泣きながら帰ってしまったあとも、ひゅるひゅると落ちつづけました。そして、兄さんたちが夕飯を食べられないでいるときも、ひゅるひゅると落ちつづけました。そして、兄さんたちが泣きながら眠ったそのときに、すとん、と穴の底にしりもちをつきました。あたりは真っ暗でしたが、小さな家があって、あかりがついているのが見えました。小太郎はその家まで歩いて行って、トントン、と扉をたたきました。すると、中からたいそう美しい魔女が出てきました。そして、小太郎を見て言いました。
「まあおどろいた、ハトのように小さくてかわいい子。いったいどうやってここへ来たの?」
小太郎は言いました。
「野っ原の穴に落ちたんです」
すると魔女は言いました。
「私の他はだれも通れないはずなのに、あなたがこんなに小さいからここへ落ちてきてしまったのね。まあ仕方がないわ、中へ入ってご飯をお食べなさい。そのあとであなたを穴の外に帰してあげるわ」
小太郎は暖かいご飯をごちそうになりました。小太郎がご飯を食べている最中に、魔女は小太郎に言いました。
「私はここで一人でいるのが好きなのよ。だれにも邪魔されたくないの。だから上へ戻ったら、もう二度と穴に落ちないでちょうだいね」
小太郎はご飯を口いっぱいにほおばっていたので、
「はひ、ふぁかひまひた」
とおかしな返事しかできませんでした。魔女は笑いました。

小太郎がご飯を食べ終わると、魔女は小太郎を連れて家の外へ出ました。そして、さっき小太郎がしりもちをついたあたりまで歩いて来ました。魔女はハトのように小さい小太郎を上着のポケットに入れると、トン、とジャンプして、そのままひゅるひゅると、上に昇って行きました。小太郎が落ちてきたときと同じように長い時間をかけて、魔女はひゅるひゅると上に昇って行きました。暖かいポケットの中で、小太郎はいつの間にか眠っていました。

夜が明けるころ、小太郎は穴の外につきました。魔女は小太郎をポケットから出して地面に置きました。小太郎は、
「これで兄さんたちのところへ帰れます、ありがとう」
とおれいを言いました。そして家に向かって走り出しました。魔女はそれを見送りながら、ふと思いました。
「あの子は小さすぎるわ。もし間違ってふたたび落ちてきたとしたら、また私の邪魔をされてしまう。それじゃたまったもんじゃないわ」
そして、走って行く小太郎に向かって、叫びました。
「もう落ちてこれないようにしてあげるわ、覚悟なさい!」
するとその瞬間、小太郎の身体が、ぐん、と大きくなりました。それを見ると魔女は満足して、穴の中へ帰って行きました。

小太郎は家に着くと、兄さんたちを大声で呼びました。兄さんたちは帰ってきた小太郎を見て、泣いて喜びました。お父さんもお母さんもたいそう喜びました。それからお父さんとお母さんは、親戚と近所の人たちを家に呼びました。そしてご馳走を作り、小太郎がちょうどいい大きさになったことを、みんなで盛大にお祝いしましたとさ。めでたし、めでたし。

2006.10.19

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ