どこまでも、まよいみち

昔話の様式ってこんな感じ

大人になってリアルなストーリーに慣れちゃうと「子ども騙し」みたいに思える、昔話の独特のかたち。でもこれが最大の魅力でもあると思うのです。

昔話の様式とは、たとえばこんなこと

子どものときには何の疑いも持たずに、そのまんま素直に受け入れていた昔話。でも成長するにつれ、昔話のいろんなところを「ヘンだ」って感じはじめるものですよね。昔話を写実的な物語と比べると、まるで対極にあるかのようです。そう、昔話はとても抽象的な物語なのです。その理由は、「語り手が語るのを聞く」物語だったからだと私は考えています。

現在は、物語はまず文字(あるいはマンガなど)により伝えられます。書いてあるものなら少々複雑な構成でも追って行くことができますから、たくさんの登場人物それぞれの背景が詳しく説明されても、人物同士の関係が入り組んでいても、人物の心情を細かく描写されても、読者は自分のペースで納得しながら読み進めることができます。映像は時間の流れが決まっているので自分のペースでというわけにはいきませんが、目で見る情報量が多いのでそれを補えるでしょう。

でも昔話は、本来は人が話しているのを聞くだけだったのです。今聞こえてきた言葉は、次の瞬間にはもう残っていません。聞き手がもしさっきの言葉を聞きもらしていたら、そこで話はわからなくなってしまいます。それから、場面があちらこちらにとんでしまうと追うのが大変ですし、長々と説明文や描写文を加えるとそれが終わったときに前の場面が思い出せなかったりして、やっぱり話がわからなくなってしまいます。だから昔話の語り手は、聞き手に極力負担をかけないように、しかも飽きずに最後まで聞いてもらえるように工夫をこらしたのでしょう。その工夫が「昔話の独特の様式」として表れているのだと思います。

…でも実際は、「聞き手が要望するものを与えるために独特の様式を必要とした物語」が「その様式が保たれやすい口承伝達を自らの繁栄の場とした」ということらしいです。口承伝達のための様式と、聞き手が要望するもののための様式が、ちょうど同じであったという…。なんだけど、口承伝達のほうから考えたほうが受け入れるのが容易だと感じたので、そっちから考えてます。

昔話の様式

おもなものを以下にあげてみました。説明部分は私的解釈が混ざっており、文献のとおりの正確な内容ではありません。(補足部分は私の推測です。)

昔々あるところに、という言葉

これは時と場所を言い表すもっとも抽象的な言葉。昔話は時も場所も特定しない。昔あった事だから「昔々」と言っているのではなく、時を特定しないという意味の定型句。

繰り返す

新しい出来事ばかり起こると、聞き手はつねに緊張して聞いていなければならない。しかし、すでに知っている場面なら緊張はほぐれる。さらに「今度も前と同じかな、それとも何かが違うのかな?」と期待を持って聞くことになり、三度めに決定的な事が起こればそれは聞き手の心に印象深く留め置かれる。繰り返しは聞かせどころのひとつだと思う。歌にサビがあるように、昔話にもサビがある。

また、登場人物が多い「おおきなかぶ」などの場合。蕪をひっぱるための人物(?)がひとり増えるたびに、皆で引っ張る様子を繰り返す。これは大勢の登場者をきちんとイメージさせるのに有効。でも何より単純に、繰り返しは聞いていて面白いです。(私はじつは昔話を語ってもらったり読んでもらったりした経験がほとんどなく、落語を聞いていて繰り返しの可笑しさに気付きました。)

ぴったり一致する

ガラスの靴がぴったり合うのは、国じゅうで主人公ただ一人。死人を買いとるのに必要な金額を、主人公がちょうどぴったり持っている。国王亡き後「これからいちばん最初にこの国に入ってきたものを次の国王にしよう」と決めたちょうどそのとき、主人公がその国に到着する。奇跡的な一致はとてもドラマチックで、聞き手の気持ちをひきつける。

詳細を説明しない・不思議は当たり前

動物や植物や家具が喋ったり、神様や幽霊や怪物が出てきたりしても、そのこと自体を不思議がったり怖がったりはしない(怖がるのは怪物が現れたからではなく、怪物が自分を殺そうとするから)。

話の筋を進めるのに直接必要のない事柄についての細かい説明や描写は、トントンと調子よく進んでいる場面の動きを止めてしまう。 無駄な描写をやめ、不思議を当たり前として扱うことで、場面はテンポよく動く。主人公は、まっすぐに筋を進んで行くことだけを考えている。

覚えやすい数・色・形・順番・コントラスト

覚えやすくイメージしやすい。数は1・2・3・7・10・12、たくさんあるときは100・1,000など。色は赤・金・白・黒など。形は四角や丸などはっきりしたもの。順番は規則正しく(聞きながら次を予想できる)、弱いものからだんだん強いもの・大きなものからだんだん小さなもの・長男から順に末っ子まで、など。コントラストは、醜く意地悪な姉と美しく優しい妹・12人の賢女と1人の悪女・国中のつむを焼き捨てたはずなのにお城にひとつだけ残っていた、など。

人にも物にも実体がない

王様に王様としての実体はなく、自由に行動し誰とでも接触する。クルミにクルミとしての実体はないことが多く、クルミの殻に馬車をしまっておいたりする。肉体に肉体としての実体はなく、切り落とされた腕が数年後でも腐ることなく元通りにくっつくし、少女が百年間眠っても百年分の肉体の衰えは全く現れない。

めでたしめでたし、という結末

語り手の語りを聞きながら、聞き手は主人公の幸福を願います。その聞き手の気持ちは語り手に伝わってきます。聞き手の満足は主人公の幸福「めでたしめでたし」なのです。必然的に語り手は聞き手に喜ばれる話を語ります。昔話にハッピーエンドが多いのはこういう理由なのだそうです。

また、お話はこれで終わりだよという合図の結末句でもあります。

昔話の様式を知る・おすすめの書籍

昔話についてもっと詳しいことを読んでみたいという方のために、おすすめの書籍をご紹介します。手に入りにくいものは図書館で探してみてください。

  • ヨーロッパの昔話――その形と本質 (岩波文庫) マックス・リュテイ (著), 小澤 俊夫 (翻訳) :2017/8/19

    昔話研究の場で基礎的文献として広く読まれているそうです。難しくて読むのに時間がかかり、理解するために何度か読み返さなければなりませんでしたが、大変興味深い内容でした。※岩崎美術社 (1995)は入手がやや困難ですが、2017年に岩波文庫に加えられ、入手しやすくなりました!

  • 昔話の本質と解釈  マックス リューティ (著), 野村 ヒロシ (翻訳) :福音館書店 (1996/1/25)

    「昔話の本質」「昔話の解釈」が合本になったものです。本質は十章、解釈は八章からなり、各章で実例をあげて昔話の特質が説明されています。「ヨーロッパの昔話」が難しい論文なのに対し、こちらはラジオ放送がまとめられたものなのでいくぶんやさしく、読みやすかったです。

  • 働くお父さんの昔話入門―生きることの真実を語る 小澤 俊夫:日本経済新聞社 (2002/10)

    著者は「ヨーロッパの昔話」の翻訳者であり、国際口承文芸学会副会長・日本口承文芸学会会長・「昔話研究所」主宰。本書の第一章ではいばら姫を用いて昔話の法則が解りやすく説明されています。第二章~第四章では昔話が何を語っているか、子どもたちが昔話から何を感じとるのかということの著者の見解が述べられています。第五章では「身近な大人が生の声で、子どもにお話をしてあげてください」と訴えておられます。

  • 昔話の語法 (福音館の単行本)  小澤 俊夫:福音館書店 (1999/10/20)

    著者はあとがきで「昔話は独特の語法をもっているが、それは日常的に語られたから保たれていたのであり、現代はそれが失われつつある。たとえ従来と違った方法で昔話が伝承されるとしても、昔話の独特の語法をきちんと知り、本来の語りの姿をこわされずに永く伝えられることを願って、この本を世に送る」ということを仰っています。本文は「語法の分析」「昔話の様式研究の歴史」「マックス・リュティの様式理論」「昔話の音楽的性質」「昔話の語法研究」からなり、音響資料として実際の語り(鈴木サツさんの語り)が収録されたCDが付けられています。

  • 昔話絵本を考える 松岡 享子:日本エディタースクール出版部; 新装版 (2002/11)

    本来は聞くための物語としてその形ができている昔話は、聞くことによってその力が最大に発揮されます。実際にグリム童話「七羽のからす」を用い、昔話を耳で聞くことと、絵本で見ることの、同じお話から受けとるものの違いをあきらかにしています。数十年にわたり実際に子どもたちにお話を語ることをしてきた著者の、豊かな経験からの言葉にはとても説得力があります。文章も読みやすく、おすすめの一冊です。

  • たのしいお話 お話を子どもに 松岡 享子:日本エディタースクール出版部 (1994/07)

    このタイトル「お話」という言葉の意味は、『語り手がお話をおぼえて自分のものにして(本を見たりせずに)聞き手に語って聞かせること』です。子どもに「お話」をしてあげようという趣旨の内容です。その中で私が特に気になるのは「語るに向く話の条件」という章で、これがことごとく昔話の特徴にあてはまります。なので私は「語るために自然にあのような様式になった物語」をとくに昔話と呼ぶのだ、と考えていました。(※私の考えていたことは間違いのようでした。詳細は「ヨーロッパの昔話」に)

2012.05.30

  背景画像:フリー素材 * ヒバナ